治療のためのガイドラインがある

――診断が確定したら、治療方針を決定することになります。肝細胞がんの治療方法はどのように決定されるのでしょうか。


池田健次先生

池田肝細胞がんの治療はこの25年ほどで飛躍的な進歩を遂げています。現在、肝細胞癌に対して有効な治療法として確立しているのは、1.肝切除、2.経皮的局所療法、3.肝動脈化学塞栓療法(TACE)、4.肝臓移植があります。また、切除や局所療法が出来ない進行性の肝細胞がんに対する新しい治療法として、5.分子標的治療薬による治療があげられます。後ほどそれぞれ詳しく説明しますが、治療法選択のポイントとなるのは、肝細胞がんの進行度と肝臓の予備能力の双方を総合的に吟味して決めることになるということです。がん細胞があるから切除するということは正しいのですが、あまり取り過ぎて、肝機能を損なってしまうのでは、意味がありません。両者の兼ね合いで治療方針が決定してくるということをまず理解してください。
 2009年に、肝細胞がんの専門家が最先端の研究成果をまとめて、「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン(2009年版)」を刊行しています。ここでは、「肝障害度」「腫瘍数」「腫瘍径」で肝細胞がんの病期と残存肝機能を評価し、それに応じてどのような治療法を選ぶことが適正であるかを定めています。

――ガイドラインを説明してください。


図4.肝障害度の分類

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図4.肝障害度の分類

図5.肝細胞がんの治療方針

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図5.肝細胞がんの治療方針

池田まず肝障害度で、A、B、Cの3段階に分けます。この分類は国際的なChild-Pugh分類とは異なるもので、「腹水」「血清ビリルビン値(mg/dL)」「血清アルブミン値(g/dL)」「ICG15分値(%)」「プロトロビン活性値(%)」の各項目のポイントを加算してその合計点で分類するものです。

 比較的障害度の低い、言い換えると肝機能がより良好なA、Bと判定されると、次に腫瘍の個数で「単発」「2、3個」「4個以上」の3つに分けます。単発ならば、切除が選択されますが、肝障害度B、腫瘍径2cm以内の場合では局所療法も考慮されます。腫瘍数が2、3個である場合、腫瘍径が3cm以内ならば、切除、局所療法が選択されますが、3cm以上の場合は切除とともに塞栓療法が選択されます。腫瘍個数が4個以上と進行した場合は切除による不利益が大きくなりますので、塞栓療法か肝動脈から抗がん剤を注入する治療(肝動注化学療法)を選択することになります。
 肝障害度がCである場合は、腫瘍個数が1~3個ならば、移植が最も好ましい治療であり、4個以上となると症状緩和を中心にした治療法が推奨されます。

――すごくシンプルに決まるのですね。

池田これはあくまで基本的な考えを示したガイドラインですから、これ以外の治療法がないというわけではありません。例えば、腫瘍が尾状葉という局所療法が難しい場所にあると局所療法は困難になります。また、肝動脈塞栓療法は、腫瘍径が大きい、あるいは多数個ある場合にも対応できますが、門脈への浸潤が起こっていたり、肝外転移が起こって肝機能が悪くなっているなど、積極的な治療をしても体への負担が大きい場合には、積極的な治療をしないということも選択肢の1つです。
 繰り返しになりますが、肝機能をどれだけ残せるかという判断が治療選択の基準として大変重要です。先ほど説明しましたように慢性肝炎から直接、肝細胞がんが発生する割合は低いのですが、肝硬変になると非常に高くなります。言い換えると、肝細胞がんは肝臓がずいぶん悪くなってから発生してくるわけです。日本の肝細胞がん患者さんの80%以上が肝硬変を合併していますので、肝機能が良好な患者さんはまれです。
 切除は強力な治療法ですが、切除によって肝臓が“目減り”することになります。肝細胞がんは治療しても、再発することが多く、これも大きな問題です。再発するとまた治療を行う。再発と治療の繰り返すことから、最初から大きく切除してほしいという患者さんもおりますが、肝機能を維持するために切除範囲は必要最小限度を目指し、切除範囲の決定には慎重にならなければなりません。
このようにガイドライン以外にも考慮しなければならない点がありますので、患者さんは主治医から説明を受け、よく相談してから治療法を決めるとよいと思います。


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