――新しい薬が開発されたと聞いています。
堀江ここ数年、腎細胞がんの治療は大きな変貌をとげました。その立役者が分子標的治療薬の登場です。日本では2008年に最初の薬が承認されましたが、現在使用できるものが2種類、今後も増えていくと見られます。
――既存の治療薬とどこが違うのですか。
堀江腎細胞がんに限らず、がん細胞が増えていくためには、がん細胞の中で「増殖せよ」という指令が出され続けていることが必要です。正常細胞ならば、適度なところで増殖が止まるのですが、がん細胞はこのブレーキが働かず、アクセルが踏み放しになった状態にあります。このブレーキ異常の原因が遺伝子の変異です。また、がん細胞は栄養と酸素を正常細胞よりも大量に消費するために、血管を勝手に作るものもあります。腎細胞がんの70% では、異常増殖と血管新生に共通の遺伝子変異が関与していることが明らかになってきました。このように変異した遺伝子の働きをピンポイントで止めることを目的に開発された薬剤が分子標的治療薬です。これまで進行性腎細胞がんに使用され、がんの成長を抑え、患者さんの生存期間の延長に寄与することが確認された初めての全身療法として推奨されています。
――サイトカイン療法にとって代わることになりますか。
堀江私は分子標的治療薬が登場してもサイトカインがすぐに退場することはないと思っています。サイトカイン療法の有効性は必ずしも満足がいくものではなかったのですが、何といっても使用実績があり、その有効性と限界を日本の医師らが熟知しています。まれに投与した進行がん患者の中に長期生存が得られることも非常に魅力です。
分子標的治療薬は使用経験が少ないこともあるのですが、まだその潜在力を活かしきった使用方法が見出されているかというとそうではなく、試行錯誤が必要です。現在は、根治切除が出来ない場合や転移再発した患者さんにのみ使うことができますが、将来は術後の早期に使って、転移や再発を予防できるようになるかもしれません。また、私が大変有望だと考えていることは、手術の前に使ってがんを小さくすることです。小さくできれば、全摘が必要だった患者さんが部分摘で済むようになる可能性もあります。
――それは患者さんにとって大きな福音ですね。
堀江進行性腎細胞がんでサイトカインが効かなくなった患者さんには分子標的治療薬による治療が推奨されています。今後の腎細胞がんの治療の進歩は分子標的治療薬にかかっているといっても過言ではありません。発売される薬は増えてきますので、それらの組み合わせや、より有効な患者さんの選別なども大切な研究テーマです。
また、分子標的治療薬は、ピンポイントでがん細胞を叩くことを目標に開発された薬剤ですが、副作用はありますので、副作用をいかに管理するかも大切なポイントです。以前の抗がん剤は正常細胞、がん細胞に限らず、増殖中の細胞に共通する仕組みを攻撃する薬剤でした。したがって、毛根細胞、小腸、免疫細胞を作り出す骨髄の細胞など増殖が必要な正常の細胞にもダメージが現れました。脱毛、下痢、免疫力の低下が多くの抗がん剤に共通していました。一方、分子標的治療薬はそれまでの抗がん剤では見られなかった未知の副作用が出現することが多く、注意が必要です。よく見られる症状は手足症候群という皮膚症状です。また高血圧や下痢なども現れます。そこで、医師や看護師、薬剤師が患者とともに副作用に目を光らせ、症状が出現した場合は速やかに対応できる体制が必要になります。




